2016年11月27日

『夢見る葦笛』 上田早夕里

夢みる葦笛
夢みる葦笛
上田 早夕里

光文社 2016-09-15
売り上げランキング : 30884


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
上田さんのSF短編集。上田さんもこのところ、熱量のあるドラマで読ませる長編が多くなってきましたが、今回は、ハードで映像的な、切れ味のあるSFという本領発揮。耽美、とまでは行かないものの、この現実から高らかに飛翔していく世界の映像美は、飛浩隆作品を彷彿させました。おもしろかった。
続く
posted by 波多利郎 at 15:20| Comment(0) | TrackBack(0) | Novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『羊と鋼の森』 宮下奈都

羊と鋼の森
羊と鋼の森宮下 奈都

文藝春秋 2015-09-11
売り上げランキング : 974


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
2016年本屋大賞受賞作。ピアノの調律をテーマに、深く豊かに澄み切った「音」の世界を描いた、なんともいえず美しい物語。ピアノは、鋼の弦を、羊毛のフェルトが取り付けられたハンマーで叩くことで音を出す。調律師を目指して、その鋼と羊の森に足を踏み入れた主人公の苦闘を描きます。

ピアノは演奏する人が主で、調律師は、あくまでもそれを支える裏方的なイメージがあったのですが、ここでは調律師も立派な音の探求者として描かれます。言葉にできない、明確に伝えることの叶わない、音のイメージを楽器で再現する。その音を求める人がいて、それが仕事として成り立っているというのが、なんとも尊いことに思えてきます。
posted by 波多利郎 at 14:31| Comment(0) | TrackBack(0) | Novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『また、桜の国で』須賀しのぶ 

また、桜の国で
また、桜の国で須賀 しのぶ

祥伝社 2016-10-12
売り上げランキング : 22787


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

須賀さんの描く第二次世界大戦。これまでも繰り返し、この題材を取り上げて来た須賀さんながら、よりにもよって今回はポーランドが舞台。これまで以上に悲惨かつ、ハードなサバイバルで、ずっしり重かったです。

亡命ロシア人の父と日本人の母との間に生まれた棚倉慎。父親似の容貌が周囲から浮かないこともあって、外交官となり、世界の各地へ赴任してきた。1938年秋、満州のハルピンから、美しき平原の国ポーランドに転任した慎。ポーランドには、慎が幼い頃に、特別な感情をかき立てる1つの出会いがあった。

さて当時、ヨーロッパはうす紙一枚の平和を保っていたが、それが破られるのも時間の問題であった。周囲に露骨な野心を振りまくドイツとナチがいよいよ牙を剥いたとき、それを止められる者は存在しなかったから。とにかく、圧倒的に「世界が悪い方向に向かっている」という感覚。分かっていても抗えないという無力感。それは2016年11月の現在に、何とシンクロすることか。おかげでつらくて、なかなか読み進められなかったです。

ドイツの同盟国の日本人であることから、慎自身は闇に葬られることこそ無いものの、ポーランドと、慎の大切な人たちは見るも無残に踏みにじられていく。どう足掻いても、傍観しているしかない慎。ナチの行った残虐行為の、ほとんどがこの国で、最も大規模に行われた。第二次世界大戦が終結した後でさえ、「ソ連側」に組み込まれ、長い長い苦難に遭い続けた。それでいて、今回は、「神」すら想定されない物語。酷いことも救いもすべて、人間がこの手でやらかしたことなのだった。

「国を愛する心は上から植えつけられるものでは断じてない。まして、他国や他の民族への憎悪を糧に培われるものではあってはならない」須賀さんの魂の叫び。自由を、平和を、差別の無い世界を。声なき悲痛な叫びを、もしかしたら私たちはもう、声に出せなくはなっていないか。かつてきたあの道は、この先にもぽっかり開けてはいないか。まだ引き返せることを、願ってやみません。
posted by 波多利郎 at 13:30| Comment(0) | TrackBack(0) | Novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月16日

『戦場のコックたち』深緑 野分

戦場のコックたち
戦場のコックたち深緑 野分

東京創元社 2015-08-29
売り上げランキング : 35023


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

2016年本屋大賞ノミネート作。と、いうことで、ほとんど予備知識無く、手にした本作。「コックたち」というくらいだから、少しはグルメ要素もあるのか?くらいに思ってたのですが、そっちはそれほどでもないです。「戦争」は第二次世界大戦。アメリカから志願兵として、ドイツ占領下のヨーロッパに上陸した主人公のティム。食べるのが好きで、祖母の影響で料理も多少はできたことから、調理も担当する「特技兵」を希望するのだったが…。

コックと言っても、アメリカの軍隊はちゃんと弁当風の「糧食」が配給されるので、主人公はスープくらいしか作っていない感じです。なので、どちらかというと、戦争という世界を巻き込む大嵐の渦中で、それでも営まれる人々の日常の片隅で、彼が遭遇するささやかな事件と謎がメインの物語。本当に人はばたばた死んでいくし、悲惨なことも理不尽も山ほどある中で、例えば降下に使ったパラシュートの予備をかき集めて民間人に横流しする兵がいたとして、そいつはパラシュートなんかを、何に使うのか?といった具合に。

まあ、謎解きもそれほど上手いオチではなかったです。ここで描かれたアメリカから見た第二次世界大戦。基本、飢えとか絶望はそれほどでもなくて、まだしも友情や人間性が発揮できる場面もあった。つまり、そういうドラマを描きたかったのかなあ。日本が関わった地域での、幽鬼のように絶望と玉砕に突き進んでいったアレでは無く。
posted by 波多利郎 at 15:37| Comment(0) | TrackBack(0) | Novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『逃げるは恥だが役に立つ』1〜8巻 海野つなみ

逃げるは恥だが役に立つ(1) (Kissコミックス)
逃げるは恥だが役に立つ(1) (Kissコミックス)海野つなみ

講談社 2013-06-13
売り上げランキング :


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

とむ影さんおすすめ。ただ今最新の8巻が出たばかり。ドラマ放送が始まったこともあり、トライしてみました。今時の若い女性の仕事、恋愛、結婚という、トレンディドラマが手垢をつけまくってきた直球ど真ん中なネタを、今という時代の最前線で展開するとこうなる、という、どこか社会学レポートを思わせるマンガでした。良くも悪くも理屈っぽい。
ドラマはどうなるでしょう。テーマ自体は本当に王道なので、甘ったるい恋愛ドラマにもできますが、願わくば原作の、普通口に出さない正論をしっかり言語化している、トンがった部分を、うまく前面に出していただきたい。お手並み拝見です。

主人公森山みくりは、大学院新卒採用で就職できず、やむを得ず不安定な派遣社員暮らし。今は週1で独身イケメン30台後半童貞男の家に家事代行に通っていた。当然、自活できるほどの収入も無いところで、両親が実家を処分して田舎暮らしすることになり、進退に迷う。ダメ元で、通い先のイケメンに、住み込みで家事を担当する契約結婚を持ちかけるが…。

まあ、この提案にイケメンが乗る時点で、お互い好意と信頼があったのだと思う。なので、以後の展開は契約という建前に阻まれて本音を言えないカップルのラブストーリーのつもりで読んできました。なんとも、まだるっこしかったが。

テーマは結婚てなんだろう?という本当に根源的な問いかけ。これも当然ながら、真面目に考えるほどに一生納得できる答えは出ないシロモノであったりします。とりあえず、この2人のように、経済的、世間体的なメリットがあれば、まだいい。が、今時はそれすら無い場合も多い気がします。
特に子供関連は、その時間的、経済的なコストの膨大さに誰もが尻込みせざるを得ない。愛情だのやりがいだの絆だのの、目に見えないメリットで、果たしていつまで次の世代を維持していけるのか。どうしよう、絶望しか感じね−んだけど…。

続く
posted by 波多利郎 at 15:29| Comment(0) | TrackBack(0) | Comic | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月11日

『雲は湧き、光あふれて』/『エースナンバー』 須賀しのぶ

雲は湧き、光あふれて (集英社オレンジ文庫)
雲は湧き、光あふれて (集英社オレンジ文庫)須賀 しのぶ 河原 和音

集英社 2015-07-17
売り上げランキング : 10592


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
エースナンバー 雲は湧き、光あふれて (集英社オレンジ文庫)エースナンバー 雲は湧き、光あふれて (集英社オレンジ文庫)須賀 しのぶ 河原 和音

集英社 2016-07-20
売り上げランキング : 19538


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

野球をこよなく愛する須賀さんの、高校野球をテーマにしたオムニバス短編集。続編の『エースナンバー』では、『雲は湧き〜』で登場したチームの前日譚やその後が読めて嬉しかったです。

某代打&代走コンビのその後も良かったし。また、幼なじみ同士で、強豪校と弱小公立校のチームに進学し、それぞれエースとして投げている2人が、お互いだけライバルとして意識し合っている話とか。なかなか萌える展開で好きだったのですが、やっぱり人気があったらしい。

この月谷君は、『おおきく振りかぶって』の三橋タイプの投手なのに、性格が阿部君なので、美味しいです。いつか彼らのその後の成長が見られると期待して良いですか?
posted by 波多利郎 at 18:04| Comment(0) | TrackBack(0) | Novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ホーンテッド・キャンパス』 櫛木理宇

ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)
ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)櫛木 理宇 ヤマウチ シズ

角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-10-25
売り上げランキング : 99774


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
最近ハマった人気シリーズ。北陸にある雪越大学の「オカルト研究会」が学内に蔓延する怪奇現象の謎を解き明かす。ライトな『ゴーストハント』シリーズといった雰囲気で気に入ってます。おそらく、作者もあのシリーズが好きで、リスペクトがあるのかと勝手に思うところでした。

主人公、八神森司は、少しばかり「視える」体質。とはいえ、お祓い系の力は皆無で、できれば怖いものには近寄りたくないと思っている。それが、「オカルト研究会」に入会してしまったのは、高校の後輩で、今年雪大の同級生になった(森司は一浪なので)灘こよみが、そこに入会したからだった。

オカルト研究会は、オカルト全般に異様に詳しい蘊蓄魔神の部長と、対人折衝と実務能力の突出した副部長。霊感があって体力勝負もできる上級生(3人とも3年生)。それに森司とこよみという2人の1年生で構成されています。彼らは口コミでオカルト関係の相談を受け付けているのですが、学校内の身内の紹介で持ち込まれる相談にしては、、結構ハードなものばかり。素人が扱うのはどう見てもやばいんじゃね、と思いつつ、なんだかんだで無事解決しているのでした。

まあ、8冊ともなると、オカルト事件も、主人公カップルのじれっっっっったいラブコメも、ややマンネリになるのは避けられないところですが、このオカルト研のメンバーが右往左往する事件簿は、いつでも気持ちよく見ていられるのでした。 オカルトネタに、いまだあるところにはある、家制度やムラ社会の因習や差別を取り上げているところも、リアリティがあっていい。今時の電脳系ツールや現代的無名の悪意ネタ、サイコパス系があまりないのも、後味が悪くなりすぎなくていいと思います。
そんなに怖くないんだし、メディアファクトリーあたりで出してもよかったんじゃないだろうか。
続く
posted by 波多利郎 at 16:45| Comment(0) | TrackBack(0) | Novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『少年の名はジルベール』 竹宮惠子

少年の名はジルベール
少年の名はジルベール竹宮 惠子

小学館 2016-01-27
売り上げランキング : 4937


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

竹宮さんが、漫画家生活40年を振り返った自伝的エッセイ。その赤裸々な想いが綴られたことで、話題になっていました。やっと読めました。

竹宮作品は『風と木の詩』があまりに衝撃的でしたが、私はむしろ、『変奏曲』『地球へ…』で生々しく描かれていた、選ばれし者の恍惚と不安、そして選ばれなかった者の嫉妬と足掻き続けるしかない敗北感こそを、強烈に覚えています。それらが負ける側にあってこそ、逆光に光り輝く物語であった事も。その感情はおそらく、彼女自身の生々しい体験に裏打ちされていたことでしょう。そして、竹宮さんの近くにあって、決して手の届かないまばゆい光のような存在と言えば、萩尾望都以外には考えられない事も、うすうす読者は察していたように思います。

もちろん、多くの人がいればその人なりの事象の見方があるもので、竹宮さんの語る過去はそのうちの一つにしか過ぎない訳ですが、それにしても、これはさぞかししんどかったろうなあ。同情せざるを得ない。

もちろん、萩尾さんがエッセイ等で語る彼女の過去においては、萩尾さんの作家生活も決して順風満帆という訳ではなく、今では信じられないほどに少女漫画への偏見や無理解の壁が厚かった時代、壁を突破しようと足掻いていたのは萩尾さんも同じだったはずでした。ただ、萩尾さんは最初から描きたいものをしっかり持って、評価されようとされまいと、愚直にそれを追求してきた印象がある。創作に邁進するあまり、周囲を慮っている余裕などないくらいに。端から見て、それこそが選ばれた証だったかもしれません。

1つの時代の黎明期に青春を過ごした人たちの、熱く、痛い風に吹かれたようでした。ちょっとうらやましい。
posted by 波多利郎 at 15:11| Comment(0) | TrackBack(0) | Novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月19日

「玉依姫」 阿部智里

玉依姫
玉依姫阿部 智里

文藝春秋 2016-07-21
売り上げランキング : 3017


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
高校生の志帆は、5月の連休を利用して、祖母の故郷だという山内村に旅行に出かける。亡き母の兄だという伯父の誘いがあってのことだが、これまでほとんど交流がなかった家で、出迎えた村人総出の熱烈な歓迎。さすがに不信感を抱いた時はもう遅かった。

って、いまどき(といっても、1995年設定だが)、閉鎖された村でよそ者を祭りの生贄に、をマジでやりますか。そのまま唐櫃に押し込められて山神に奉げられてしまった志帆は、神の幼体らしきものの「母親」になるように告げられる。訳も分からず従う志帆だったが…。

この昔話的展開が、八咫烏の統べる「山内」の成り立ちに関わっているのは予告された通りです。ファンタジー的にはあまり釈然としないオチだったけど、ミステリー的には謎がすっきりした感じ。人間と神の側からの物語はそれで良かったのかもしれませんが、これ、八咫烏の側からはどうなのか。「山内」は
続く
posted by 波多利郎 at 18:51| Comment(0) | TrackBack(0) | Novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月14日

「あきない世傳 金と銀」2巻 田 郁

あきない世傳金と銀 2(早瀬篇) (ハルキ文庫 た 19-16 時代小説文庫)
あきない世傳金と銀 2(早瀬篇) (ハルキ文庫 た 19-16 時代小説文庫)高田 郁

角川春樹事務所 2016-08-09
売り上げランキング : 40


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

『みをつくし料理帖』シリーズの田さんが、今度はがっつり「商売」をテーマして描く新シリーズ、2巻目です。

江戸中期、農村で生まれた少女、幸は、生家の没落により、9歳にして大阪の呉服商に奉公に出される。その聡明さのみを武器に、商売と言う男世界に踏み出す彼女の、成長と、降りかかる苦難と、成功を描く細腕繁盛記。と、いう王道ストーリーを期待しております。ほんの序盤ではありますが。

質素倹約が唱えられ、景気が後退する時勢に、幸の奉公している五鈴屋も内情は厳しかった。そのうえ、四代目を襲名した跡取りが、商売に興味ない郭狂いの、性根の腐った阿保ぼん。あほぼんって、妙に語感が可愛いので、それほど酷く思えないのがアレですけど。そのあきれた行状に、よくできた人だったご寮さんも、堪えられず実家に帰ってしまった。

四代目に後添いは必要だが、これだけ悪名が広まってしまった男には、まともなお嬢さんとの縁組みは難しい、という事情で、下働きだった幸に後添えの白羽の矢が立ったのが1巻目まで。2巻ではまたあいかわらず、ぐいぐい引っ張ります。先が楽しみ。

まあ、このジェットコースター的展開の早さと、ダメージはあっても、決して致命的では無いレベルで、トータルには前進していけるところが田さんの話づくりの上手さです。だからこそ、少し主人公に甘いかな?というギリギリのさじ加減で、辛くなりすぎず、安心して読んでいられるのですが。
続く
posted by 波多利郎 at 11:57| Comment(0) | TrackBack(0) | Novel | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする